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「街」発売20周年に寄せて

1998年1月22日、セガサターンチュンソフトサウンドノベル「街」が発売された。(後に「街~運命の交差点~」の名でプレイステーション、「街~運命の交差点~特別篇」の名でPSPに移植)

今日で発売20周年、マイオールタイムベストゲームだ。

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「街」は大ヒットした「かまいたちの夜」に続くサウンドノベル第三弾として発売された。しかし、当時のセガサターンの状況、実写ゲームという背景もあってか「かまいたち」のヒットには遠く及ばず、早々に発表されていた続編の話もいつの間にか立ち消えてしまった。当時購読していたセガサターンマガジンに載っていた売り上げ本数は、12万本程度だったと記憶している。それとは裏腹に熱狂的ファンは多く、名作アドベンチャーゲーム特集なんて組まれれば、必ず目にするタイトルでもある。


ゲーム開始時の主人公は8人、それぞれ年齢職業、シナリオの雰囲気もてんでんバラバラ。共通点は同じ時間に渋谷で生きている、ただそれだけ。プレイヤーはこの8人のシナリオをザッピングしながら何とか5日間(2人だけ3日間)を終えられるよう選択肢を選んでいく……のだが、この主人公達、さっぱり思うように動いてくれない。例えば、5日間で17キロ痩せねばならない主人公の1人[美子]、こいつがとんかつ屋に入るのを阻止しようとするものの、結局食べちゃうし。フランス外人部隊で一時帰国中の[隆士]、こいつが街中で暴れるのを避けようとするものの、結局警察沙汰の大乱闘になるし。で、プレイヤーの手に負えない場面がしばしば。そんな面倒くさいやつらが勢ぞろいしてる。


この面倒くさいやつらは、ちょこちょこすれ違う。とある主人公が電話をすれば、別な主人公の運命が、とある主人公がエレベーターに乗れば、別な主人公の運命が、あっさり変わってしまう。良かれと思って選んだ行動が悲劇を招くあたりは、何とも心憎い。加えて、[隆士]の姉は別な主人公の想い人であり、同じ元カノを持つ主人公もいる等、脇役を通しても繋がり出し、運命はまたあっさり変わる。そしてこの街にいるのは、主人公達、その家族や友達、同僚だけではない。ほとんどは名前さえわからない、ほんの少しの間一緒に過ごすだけの人達。同じ交差点を歩いてたり、同じ店で買い物してたりするたくさんの人、人、人。そんな群衆の人々の行動も影響し合い、運命は変わっていく。


「街」には人物や言葉を説明する用語集のようなもの、「TIP(ティップ)」が存在する。これがゲームを解くヒントとなっている。落としたお金を拾ってくれたいい人が、実は小銭をちょろまかしていた、とか。仕事熱心なお巡りさんが、実は警察官でも何でもない、とか。プレイヤーは主人公達が知らない情報もTIPから得ていく事となる。そうして、たくさんの人々の行動に想像力を走らせては、主人公達が行き詰まらないよう選択し、何とか5日間を過ごすのだ。


それぞれのシナリオをザッピングしていると、登場人物の持つ玉虫色の魅力に気付く。主人公の一人である[桂馬]は、必死に爆破事件の捜査をしている熱血刑事だが、別な事件に巻き込まれた主人公[馬部]からすると、追い詰められた市民を軽くあしらう冷たい刑事に見える。立場や役割だけではない、人の多面性が垣間見える。そう、この面倒くさいやつらは角度を変えて見る度、キラキラと輝きながら色を変える。

 

『誰もが皆それぞれの自分生きている』

   ~エンディングテーマ 鈴木結女「One and Only」より

 


群衆の中の一人一人にも、名もなき事件が、恋が、戦いが、繰り広げられ物語は紡がれている。ほんの一瞬すれ違った人にも支えられたり、ストレスを受けたりして、世界はつくられていく。


いてよし。どんな人も、いてよし、だ。


そんなメッセージをこのゲームからずっと受け取り続けている。

発売20周年おめでとう。これからもよろしく。