ぼんくらガイダンス

ニッチな我らのニッチな適応術

二人は友達

発売22年目のリアル街週間、おめでとう!2020年の今、街ファン街バカの皆さまはいかがお過ごし?生活の変化に戸惑い、密かに我慢してイライラをため込んではいませんか?

 

今回はそんなコロナ禍の我々のように「5日で17キロ痩せないと別れる」と彼氏に言われ、ダイエットという生活の変化に見舞われた美子について書いてみよう。 

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このシナリオ、「美子の見る夢がグロい」「コメディーの皮を被ったホラー」なんて感想もある。実際サターン版の説明書にも“追い詰められた美子は次第に過激な手段を取るようになっていく”と記載がある。爆弾犯を追い詰めたり、脅迫で1万円巻き上げたりする他シナリオとは違い、ほのぼの担当だと思って読み進めていくと、その展開に驚くはずだ。しかしこのシナリオの魅力は、そんな意外性だけではない。一番の魅力、それは秋山薫との友情であると言いたい。ここではそんな二人の関係について考えてみる。

 

※以下、「サウンドノベル 街 -machi-」(SS)、「街~運命の交差点~」(PS)、「街~運命の交差点~特別篇」(PSP)の『やせるおもい』についてネタバレがあり、プレイ済みの方向けとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではまず、二人の仲をさらっとおさらいしよう。二人は書店のバイト仲間で美子が先輩、薫が後輩、年も薫が美子の1つ下である。接点はバイト先が同じ、それくらいだろうか。二人は美子のダイエットをきっかけに、ギクシャクしたり仲を深めたり、大ゲンカしたりしている。考えたいのはどうしてあそこまで二人の仲がこじれてしまったのか?という点だ。 

 

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美子が薫を評するセリフがある。

カオルのおせっかい……親切で、優しくて、キレイで……やせてて[2日目15:30]

食事抜きでのバイト中にミスを連発し、薫から病院で診てもらうよう勧められた美子。一人渋谷を歩きながらこうつぶやく。やせている薫にダイエットしていることを隠したまま。

 

一方薫は(主に空腹で)様子のおかしい美子にこう告げる。

美子さんにとっては、職場だけのつきあいかも知れないけど……わたしにとっては美子さんは大事なセンパイです

 (中略)

わたしチカラになります![3日目8:50] 

このまっすぐな言葉に心を打たれ、美子は薫に悩みを打ち明ける。薫との距離は今までより縮まっていく。

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美子の顔を見るだけで何でも気付いてくれる薫。まるで美子の全てをわかっているかのように。この心強い一体感、二人はもはや一心同体?

病めるときも健やかなるときも、変わらぬ友情ですよ

(中略)
そして、ヤセるときもふくよかなるときも[3日目8:50]

しかし、二人は別々の人間だ。美子が痩せても太っても薫に変化が起こる訳ではない。こんなに違う体形でも、美子の悩みを薫はわかってくれるのだろうか?本当に?美子の心に疑念が浮かぶ。

 

 

 

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そんな美子の気持ちを知ってか知らずか、薫は的確なアドバイスと共に、美子の複雑に変化した悩みへ迫って来る。その時、美子の目に映るのは薫の細い足、細い指。高まった一体感は二人の違いを突き付けられたことで失われ、深まった友情は心の奥まで暴こうとする。知られたくないのに、親しくなったからこそ隠し通せない。

「カオルにはわたしの気持ちなんてわかんないのよッ」[4日目11:00]

こうして、友情に亀裂が入ってしまう。

 

【余談】プレイヤーの皆さまはご存知のとおり、友情崩壊への最後の一押しは、薫と洋一の密会を美子が目撃したことだ。でもこれは完全なる勘違いなので、ここでは割愛。苦悩でいっぱいの美子はロボへ変身し、ダイエットのラストスパート!これも一つのアンガーマネジメントなのか?すごいぞ美子!

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ダイエット最終日の5日目、ケンカをしたのに薫はわざわざ自宅まで様子を見に来てくれる。ここで薫からとある過去が語られるのだが、美子はそれを上手く飲みこめない。美子が今までわかり合えていると思い込んでいた薫とは、全く別の薫の話だったからだ。美子から見えた薫はほんの一面に過ぎなかったのだ。薫もまた心の奥にしまっていた葛藤を美子によって引っ張り出されていた。友情であれ愛情であれ、深い関係には恐ろしさがつきまとう。

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友達なんて、自分の命を顧みず相手のために行動する「走れメロス」的関係から、学校やバイト先で出会い何となく共に過ごすような関係まで、その濃さは様々だ。

 

『友達』に明確な定義なんて無い。

同じ目標を持ってなくてもいい。

抱く理想が違ってもいい。

貧富や優劣の評価も必要ない。

いっそ善悪の感覚が別々でも問題は無いのだ。

 

さて、二人はまだ友達なのだろうか?

 

仲が深まったことで、バランスを失ってしまった二人。友達に明確な定義は無いとなると、その答えは二人の中にしかない。あの時美子が「友達じゃない」と答えなかったことは一つのヒントなのだろう。では薫は?薫は美子をどう思っていたのだろう?ここまでの薫の行動を振り返れば、予想は難しくないはずだ。

 

 

 

 

だが、最後に一つ問題があると気付いた。美子と同じく、プレイヤーもまた薫の一面しか知らないのだった。 

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……なので、この点は街2発売後に改めて考察するとしよう。

ここまでお付き合いありがとうございました。

 

※画像は「サウンドノベル街-machi-」より引用