ぼんくらガイダンス

ニッチな我らのニッチな適応術

そうして父になるんだぜ陽平

ハロー、こんにちは、そしてチンチコール!やって来ました2019年のリアル街期間。10月11~15日は「サウンドノベル 街 -machi-」のファンにとって特別な時間!ゲームの舞台は1990年代後半の渋谷、インスタントカメラが女子高生必携のアイテムだった時代。その頃の10月11日から15日までの間、主人公達と取り巻く人々の交錯をこのゲームは描いている。

発売から21年と長い年月が経っても愛され続けているこの作品について、昨今はSNSの発展もあり、感想や考察を日々ファンの間で共有できるようになった。何年経っても新しい発見はあるもので、今回、ふっとした呟きをきっかけに主人公の1人である陽平について考えてみた。 

飛沢陽平“学園のアイドル”(説明書より)だが、その本性を知るはプレイヤーのみ。作中友達らしい友達の名前も出て来ず、両親への態度もややクール。18歳と主人公最年少ながら、降りかかる難問(自分で蒔いた種)にたった一人で立ち向かう。あの青ムシですら、白ブタという同志がいるのに!

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自称・親友の人。だが陽平にとっては…(今回出番ココだけ)

※以下、「サウンドノベル 街 -machi-」(SS)、「街~運命の交差点~」(PS)、「街~運命の交差点~特別篇」(PSP)の『で・き・ちゃっ・た』についてのネタバレがあり、プレイ済みの方向けとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではここからネタバレ全開で。
このシナリオは一晩だけの女…のはずだった亜美の「赤ちゃん、でき……ました」から始まり、それを乗り切ろうと繰り出される陽平の嘘をニヤニヤしながら見守るのが楽しいにシナリオ。最終的にこの現実からは逃れられず、受け入れていく……そのシーンがクライマックスだ。

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開始早々プレイヤーをビビらせる名シーン

では陽平はいかにしてこの現実を受け入れたのか。陽平に起こった変化とは何だったのか?それが今回のテーマ。

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こちらが陽平のプロフィール(引用元:街 公式ガイド ZAP'S)

まずは陽平について整理してみよう。先生からの信頼も厚い元生徒会長で、バスケ部時代は1年生ながら活躍する実力の持ち主。自身の外見の良さを自覚し、魅せ方も上手い。ま、ナルシストと考えて問題ない。それは正当な自己評価とも取れる。しかし度を超えたナルシズムには、苦悩から自分を守るための防御という側面がある。では、陽平の持つ苦悩とは何か。シナリオを読み返して思い当たるのはやはり、ユキの失踪である。

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元カノで初カノのユキへの態度は、ちょっと違うような

陽平の母、和子の証言。

ユキちゃんがいなくなってから、女の子の電話がひっきりなし

でも、ユキちゃん以外の女の子はウチには連れて来たことなかったわね
よっぽどユキちゃんにフラれたのがショックだったみたい

そう言えば、ユキと陽平は相談が無さ過ぎるという点で似てる。どこか信頼し合えない似た者カップルだったのかも知れない。で、ユキの失踪が全てとは言い切れないが、この件をきっかけに女グセがさらに悪くなっていったと推測出来る。ユキに突然去られた陽平は傷付き、心を癒すためそれまで以上に女の子を求めるが、大切な存在を失うのが怖いため、深い付き合いは避ける。再び訪れるかもしれない突然の喪失に備え、多めのスペアもぬかりなく準備。……理解は出来るが、認めてはいけない気のする考え方である。

【余談】
両親は放任主義、と陽平は言っている。この両親の元で育った結果、人に話しても無駄と考えるようになったのかもしれない。ただ高校3年生の子供への接し方として不自然なほどではないと思う。母和子と父周平の会話も噛み合ってないように見えるが、二人の間では成立しているようだ。両親の会話って、子供からすると理解不能な時があるよね。

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パンツはお母さんに買ってもらってる模様

複数の女の子にチヤホヤされたいくせに、美奈子の様にミス渋聖として有名な、プライドの高いお嬢様を彼女に選ぶあたり遊んでる男に見られるのは嫌、という意思も感じられ、なんて難しい男なのだろう。

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総監督(ウチトラ)も見とれる美奈子お嬢様

陽平の性格でもう一つ気になるのは、意思がとても強く、自分の意思を通すためなら、真実でも簡単にねじ捻じ曲げるところ。つまり優先順位が『自分の都合>真実』なので、簡単に嘘を重ねる。亜美に子供を諦めてもらう、そのためなら本来とは違う自分も演出しようとする(でもこの“嫌われる男”演出すら“モテるダメ男”っぽくてモテるキャラを捨てきれてない気が)。

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嫌われようとするも撃沈

真実を捻じ曲げてでも自分の意思を通そうとする執念を見せながら、亜美の意思を受け入れるそぶりは無い。これも強過ぎる自己愛のなせる業だと思う。

ボロクソに書いてしまったが、プレイ済みの方はご存知のように陽平は決して極悪人ではない。ただ自分のピンチの時にとんでもない自己中を発揮してしまうだけで、そうでもない時には人を思いやれる人物である。
誰もが皆、そんな風に微妙な心の揺らぎの中にある。

 

そんな訳で、自分の体裁のためなら、ユキ、亜美、美奈子の気持ちや立場なぞ糞くらえ!と言ったも同然の行動を繰り返す陽平。しかしその強い意志も通じない人物がいる。陽平とユキの子、優作だ。

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優作の糞をくらう陽平

優作の子守をすることになり、自分の理屈ではどうにもならない体験をする陽平。優作は思う通りに動いてはくれない。その事実には逆らえず、半強制的ながらもついに受け入れ、優作に接していく。陽平が自分の意思より、他人である優作を優先した記念すべき瞬間だ。
この時、陽平の変化スイッチが密かに起動し初めた。

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パパ姿も板についてきた?

静かに動き出したスイッチに陽平本人も気付かぬまま、白峰組長には逆らえず、自らの体裁を守るため結婚式を行うことに。相変わらずユキと亜美へまともな説明もしないままだったため、二人とも美奈子との結婚式に乗り込んできてしまう。ついに三人全員鉢合わせとなった。

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絵にかいたような修羅場

ユキも亜美も美奈子も陽平の言葉を信じていた。恋は盲目と言うが、今までの陽平がそれぞれ三人へした説明を思い出せば、ユキも亜美も陽平にとって自分が一番の存在だと思い込んでいても仕方ない。結婚式の最中である美奈子ももちろんそうだろう。三人とも陽平がモテる上、親しくしてる女性が他にもいるとわかっている。それでも、陽平の言葉をまっすぐに信じていた。それは、『陽平の言葉>状況証拠≒真実』だったからだ。

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ついに愛を知った陽平

深い愛を受け、過度のナルシズムから卒業し、変化スイッチの完全に入った陽平は、渋谷の街へと走り出した。もう守るべきものは、自分だけではない。

 

陽平が変われたのは、想いを受け取ってくれない優作の存在、そんな優作を陽平自身が受け入れられたこと。そして、その場しのぎの嘘でも真っ直ぐに信じてくれたユキと亜美の想いがあったからだ。この後、美奈子の本当の想いもダメ押しのように打ち明けられ、陽平はユキと亜美と美奈子、皆との未来を考えてゆくこととなる。

 

結局、陽平が変わるには3人分くらいの愛が必要だったのだろう。やっぱり難しい男だ。これから受けるであろう3倍の愛をしっかり注ぎ返せる人になってくれよ、陽平。

 

 

 

【おまけ】

歳若い彼らには大人の協力が必要です。全力でサポートしてくれそうな人を見つけました。きっと、3倍の愛の注ぎ方も教えてくれますよ! 

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通販会社オータムリーフ社長 秋葉雄三氏

 

※注釈のない画像については全て「サウンドノベル 街 -machi-」より引用